「このプレスリリース、今なのか?」と思ってケンカした事例
「この情報を一刻も早くリリースせよ!」
こんな指示をトップからもらった経験は、広報担当なら必ずあるのではないでしょうか?
もとより、リリースは鮮度が重要なので、のんびりマイペースで広報業務をやる道理はないのですが、タイミングが微妙とか、リリースするほど下準備が整っていない情報とか、そのまま出すのをためらう場合もたくさんあります。
そうした「リリースを急ぐ」ことは効果があるのか?
今回はそんな考察を、私の昔話を交えながら進めてみたいと思います。
リリースを出すタイミングをめぐり、とある会社にいた時、社長と大ゲンカをしたことがあります。
最終的に私の部門を見ていた役員が仲裁というか、珍しく優しい口調で私を教え諭して、私は社長に頭を下げ、そのリリースを配信しました。
その「とあるサービス開始準備」のリリースを即配信することに私が反対したのは、
- 社会的にネガティブな印象が強く、関心も高い内容が含まれる
- 社内での準備が十分でない(取材してもらえるものもない)
- リリースによる効果が見込めない
- リリースの時期が遅くなってもデメリットがない
これらの理由からでした。
一方で社長がリリースを急いだ理由は、大航海時代の新大陸発見のような一番乗りの名乗りを上げる、一種のブルーオーシャン戦略でした。
ただ、知財とは異なり、現実の効力のともなわない名乗りのみでは、実際の営業においても、マーケティング上でも、取材などにつなげる広報戦略としても、さしたる効果を上げることができません。
これが寡頭でシェアを奪い合うような大企業なら話は別でしょう。
または商標や意匠、著作権といった知財が絡むものも、遅れるリスクがあると思います。
しかし、大概の中小・ベンチャーはもちろん、それなりの規模の企業であっても、1日リリースが早いくらいで大きなアドバンテージを稼げるようなことはありません。
広報界隈ではよく、「こんなリリースは逆効果」「リリースを出さない判断も大事」のような話題が出ますが「リリースを急ぐ」こともなるべく避けたいことの一つと、私は考えます。
孫子の兵法では「拙速は巧遅に勝る」と言いますが、こと広報においては「巧遅は拙速に勝る」ことのほうが多そうです。
(「拙速は巧遅に勝る」場面もたくさんあるのですが、それはまた別の機会に・・・)
結局、その時に出したリリースは、毒としても薬としても影響は大きくありませんでした。
その事業においては、もっと現場に寄り添った細やかな視点の内容が、反響につながった記憶があります。
社会性、社会の関心の高い話題を追うにしても、あまりにマクロなものは広報的にも差別化が難しいもの。
もっとピンポイントでミクロなものが、より確実な話題につながると私は思っています。
この事業はこのあと私の手を離れ、奇抜なネタでバズることを目指す路線に進んでいき、広報よりも自身のメディア化を主体とした方針となりました。
メディアも今、電子版のニュースの普及で、速報記事は出しつつも差別化はその後の解説記事で狙うような流れとなっています。
こうした時代の広報は、今まで以上に速度よりもアウトプットの内容やタイミングが問われるように思います。
ただし、上の事例、私にも反省がありました。
社長に大ゲンカを吹っかけたのはもちろん反省すべきですが、それだけだけでなく、もっと戦略の幅を考えるべきでした。
「スピード」ではなく「数」「物量」の戦略で考えた場合、もっと有効活用できることがたくさんあったはずでした。
私が重視している広報の「数」「物量」の戦略については、また機会を改めてお伝えしたいと思います。